Background
「CHAPTER FACTORY」は、HIYORIチャプター京都トリビュートポートフォリオホテルの宿泊者とレストランで食事した方が利用できる体験型のコンシェルジュサービスです。0100010は、企画とクリエイティブディレクションを担当しました。本サービスの特徴は、ガイドブックには載っていないようなローカルなお店や京都での楽しみ方を発見できたり、宿泊者自身の旅の思い出を書き残したりできること。誰かの旅のストーリーが、他の誰かの旅の目的地になる。そんな循環を生み出すことを目指しています。
企画のポイントは、ホテルは「宿泊や食事をする」だけではなく、「今まで知らなかった旅先に出会う」という新しい体験価値を生みだしたこと。そのコンセプトと仕組みづくり、空間、ツール類のクリエイティブディレクションなど、トータルで手がけました。
Planning
京都には、既に多種多様な宿泊施設が存在しています。また、次々と新しい宿泊施設も開業しており、その中で選ばれるためには独自の施策が必要でした。ただ、そのために活用できる共用スペースは55平方メートルのみ。限られた空間で独自の宿泊体験を提供するために、まずは旅行者が観光に求めるニーズなどを探ることから始めました。
観光庁がこれまで発表していた調査データからわかったのは、世界的に「ローカルな旅の体験」が求められていること。しかし、訪日外国人の旅行にかける金額のうち娯楽/サービス費(旅先での体験に関わる費用)が占める割合は極めて少ないことも判明。クライアントはホテルを通して地域に貢献したいという思いが強く、日本でローカルを体験できるサービスやコンテンツを知ってもらう機会をつくることに、可能性を感じました。
京都には有名な観光地以外にも、路地や小川、地元の人が通う飲食店、銭湯など、ガイドブックには載っていない奥深い楽しみ方がたくさんあります。一方、本ホテルは「河原町」という京都の中心地にあり、さまざまな観光スポットにアクセスしやすいという特徴もあります。
ローカルな京都旅とホテルの立地、そして社会情勢なども掛け合わせ、共用部に京都のローカルな魅力を伝える場をつくるというアイデアが生まれました。
京都通な人たちがおすすめする“とっておきの情報”が集まる場であれば、ホテル独自の提供価値になる。そして、ホテルと地域をつなぐ“ハブ”のような存在になれば、ホテル内の客室や大浴場だけでなく、京都全体がホテルの施設と捉えることもできる。それは、クライアントが目指しているホテルを通じた「地域創生」への貢献にもつながるとも考えました。
Output
「CHAPTER FACTORY」の特徴は、京都通な方々から集めた「個人的で情緒的な、京都旅のストーリー」を伝えていること。このアイデアの背景にあるのが、単なるローカルな観光スポットの情報では十分な差別化ができないという考えです。実際、京都に関するガイドブックやWebメディアは、既にたくさん存在しています。そうした状況の中で「行ってみたい」と心を動かすのは、SNSで見かけた誰かの旅の記録やストーリーであることも珍しくありません。
そこで「旅を媒介するメディア」として選んだのが、一筆箋です。持ち歩きやすく、書き手の情緒が伝わりやすく、京都らしさも表現できる。そんな一筆箋をモチーフに、オリジナルの体験型のコンシェルジュサービスを開発しました。
京都の魅力を深掘りして発信するために、現地のメディアと連携し、京都をよく知るホテルの支配人から和尚まで様々な京都の達人にヒアリングを実施。とっておきのストーリーを一筆箋に仕立て、2021年のオープン時には50種用意しました。
ホテル1階の共用スペースは、窪田建築都市研究所と連携し、一筆箋を中心に空間をデザインしました。コンシェルジュデスクやショーケースのほか、古都らしい、古くて新しい体験ができる活版印刷機も設置。一筆箋に文章や絵を自由に書き込むための多様な筆記用具も揃えています。
一筆箋は「手のひら一筆箋」と名付け、手に馴染みのあるものとしてスマートフォンの大きさや形状をイメージしています。一筆箋のカバーは、旅のワクワク感を後押しするような色や絵柄を施しています。
「CHAPTER FACTORY」に訪れた宿泊客は、お気に入りの一筆箋を携えて京都旅をする。今まで知らなかった京都の旅を楽しんだ後、その思い出を一筆箋に書き記し、次の旅行者のために「CHAPTER FACTORY」に残していく。そんな循環が生まれる場となっています。
ホテル開業時には、170超の国内外のメディアに掲載されました。 1年間で約5000組がCHAPTER FACTORYを体験し、 配布した一筆箋は約15,000枚、残された一筆箋は約500組、約400組が、活版印刷を体験しました。
体験者からは「予定を決めずに京都に来たが、自分で選べる一筆箋の観光案内があってワクワクした」「2度目に訪れたとき、自分が書いた一筆箋がファイリングされていて、楽しい気持ちになった」「CHAPTER FACTORYは興味深い情報が多く、ついつい長居してしまった」など、さまざまな声が寄せられています。
展開事例も生まれています。京都を訪れる宿泊者のために、地元の留学生や専門学生が一筆箋づくりに参加。地元観光業者とも連携し、「京都府文化観光大使・京都グルメドライバーが提案する美食の旅プラン」も実施されました。2022年度のグッドデザイン・ベスト100も受賞しました。
Credit
クリエイティブプロデューサー:武石君宏(0100010)、永砂智史(イートクリエーター)
プロデューサー:齋藤将行(0100010)
ディレクター:松本麻梨子
プランナー:鈴木小夏(0100010)
デザイナー:伊藤裕平・内藤彩・米元秀行
空間デザイナー:窪田茂、早借光洋(窪田建築都市研究所)